ケィオスの時系列解析メモランダム

時系列解析,生体情報学,数学・物理などの解説です.

【心拍変動】NNって何,RRと違うの?

代表的な心拍変動指標(特に時間領域指標)の名前には,NNが入っていることが多いです.例えば,meanNN,SDNN,pNN50などです.

meanNN すべてのNN間隔の平均値
SDNN すべてのNN間隔の標準偏差
pNN50 隣り合うNN間隔の差が50 msより長い拍の割合(%)


心臓の拍動間隔の時系列では,RR間隔って表現もあり,そもそもNNって何,RRと違うの?と疑問に思う人が多いと思います.結論から言えば,不整脈がなければ,NNを想定した指標は,RR間隔を使って計算してください.

NNは,normal-to-normalの略です.さらに,normalは,normal sinus rhythm(正常洞調律)を意味します.正常な心臓の電気的活動は,洞結節の脱分極(マイナスからプラスへの電位上昇)が起点となり,その後,心房,房室結節,心室が順次脱分極していきます.この正常な電気的活動が見られる心臓の拍動リズムが,正常洞調律です.期外収縮や心房細動などの不整脈は,正常洞調律ではありません.ですので,期外収縮が頻発する場合や,心房細動の場合は,一般的な心拍変動解析の方法は適用できません.ほとんどが正常洞調律で,期外収縮が所々見られる場合は,期外収縮の部分に,正常っぽい拍動間隔を埋めてから,心拍変動指標が計算されます.

心臓と心電図

現在,代表的な心拍変動指標の定義を与えてるのは,

Camm, A. J. et al. Heart rate variability: standards of measurement, physiological interpretation and clinical use. Task Force of the European Society of Cardiology and the North American Society of Pacing and Electrophysiology (1996) https://doi.org/10.1161/01.CIR.93.5.1043

です.心拍変動解析を使った研究では,この論文で定義されている代表的な指標を含めて議論すると良いでしょう.なぜなら,共通の定義,共通の基準で心拍変動指標を使わないと,研究間の比較が難しくなるからです.この論文では,NN間隔は,正常洞調律を構成する隣接するQRS波(QRS complex)の間隔として説明されています.NN間隔としては,洞結節の活動の直後に,心房の脱分極にともない現れるP波の間隔であるPP間隔がふさわしいという意見があります.しかし,P波ピークはR波ほど鋭くなく,変化も非常に小さいため,心電図を計測する電極位置やノイズの状況によってはP波の検出は難しくなます.したがって,P波の検出誤差によるばらつきを考えれば,一般的な心拍変動解析を目的としてPP間隔を使う利点は少ないです.