ケィオスの時系列解析メモランダム

時系列解析,生体情報学,数学・物理などの解説です.

【時系列解析】1/fゆらぎ,1/fノイズ,何がおもしろいの?

今回は,何で「1/f(えふぶんのいち)ゆらぎ」とか,1/fノイズに注目するのか,何が不思議なのか,何がおもしろいのか,というお話です.1/fゆらぎについて,歴史と最新の成果を正確に記述することは,私には難しいので,まずは,現状の私の知識,印象,思い込みを書きます.今後,繰り返し書いていくことで,私自身の理解を整理できればと思います.

広い意味の1/fゆらぎのパワースペクトルのイラスト
1/fゆらぎ,1/fノイズとは何か

1/fゆらぎの定義には,広い定義と,狭い定義があります.広い定義では,時系列のパワースペクトル密度S(f) (fは周波数)が,低周波数側の広い範囲で
  \displaystyle S(f) \propto \frac{1}{f^{\beta}}
に従う現象です.英語のWikipediaのように, \betaの範囲 (例えば, 0< \beta < 2など)に言及してあることもありますが, \betaの範囲を広くとるのであれば,特に制限はしなくていいと私は考えています.この意味では. 1/f^{\beta}ゆらぎと読んだ方が正確です.\beta = 0のときが,白色ノイズで,\beta = 2のときが,ブラウン運動(白色の積分)です.これらの2つのケースは,無相関な白色ノイズに関連するので,不思議なことはありませんが,これ以外の値については,なんでそうなるのか,よく分からない例が多いです.

上の式にある記号 \proptoは,比例することを表しています.両辺の対数をとると,
  \displaystyle \log S(f) \propto \log \left(\frac{1}{f^{\beta}} \right) = - \beta \log f
となりますので, \log f \log S(f)のグラフを描けば,傾きを求めることで, \betaを推定できます.

次に,狭い意味の1/fゆらぎの定義は,低周波数側の広い範囲で, \beta \approx 1ということです.つまり, \betaの値は1に近いということです.自然界にいろんな現象があるのであれば, \betaはどんな値をとってもいいはずなのに,なぜか1に近いに値なり,そうなる理由がよく分からないのですごく不思議ということです.例えば,人の心臓の拍動リズム(心拍変動)は,若くて健康な成人で,狭い意味の1/fゆらぎになっています.年をとったり,病気になると \betaは,1よりも大きくなる傾向があります.呼吸リズムも1/fゆらぎになっています.体の中で観測される時系列には,1/fゆらぎが多いと言われています.

次に,ゆるい定義では,低周波数側でなくても,どこかの周波数領域で少しでも \displaystyle S(f) \propto \frac{1}{f^{\beta}}になっているということです.

なぜ,1/fゆらぎに注目するのか

なぜ私が1/fゆらぎに注目するのかについては,人や生物の体の中のゆらぎには1/fゆらぎが多く,この現象が人の健康と関係しているという結果が多くあり,その生成メカニズムが不明だからです.他の研究者も,各自の分野で似たような問題意識を持っていると思います.

生物以外でもいろいろなところで,狭い意味での1/fゆらぎの存在が主張されています.ですので,それらの背後に共通のメカニズム(普遍的メカニズム)があるかもしれないということで,それを説明したいと多くの研究者が考えているのです.

何が面白いのか,よくわからず1/fゆらぎを研究している人も多いと思います.多くの研究者が気にしているということは重要なんだろうと,なんとなく雰囲気に流されている研究者もいると思います.

1/fゆらぎのリラックス効果について

世の中では,1/fゆらぎにはリラックスや癒やしの効果があると言われています.このことについては,私は分かりません.いい論文があれば教えてください.勉強してみます.