ケィオスの時系列解析メモランダム

時系列解析,生体情報学,数学・物理などの解説です.

【時系列解析】時系列の時間スケールを変えて見る

時系列解析で私が大切にしていることは,「自分の目で時系列を見る」ことです.数値列ではなく,グラフにして見ます.とはいえ,ただ,時系列全体をグラフに描けば良いのではなく,「時間スケールを変えて時系列を見る」ことが必要です.ここで,「スケール」という用語は,大きさの目安という意味で使っています.時間スケールを変えて見るというのは,下の写真のように,カメラのズームの倍率を変えるとか,画像の解像度を変えることと同じです.株価や為替のチャートを見るときにも,1日の幅でみるのと,数週間,数年と幅を変えてみるのとでは,印象が異なります.見るスケールによって含まれる情報が異なるということです.

(上段)カメラの倍率を変えた写真.(下段)解像度を変えた写真.

下の図のような,非整数ブラウン運動のサンプル時系列であれば,どんなに拡大しても,見える景色の特徴は変りません.ただし,下の図は数学的な非整数ブラウン運動の概念をグラフ化したもので,現実世界のものではありません.現実の世界には,どんなに拡大しても,いつまでも同じに見えるものはありません(いつかは原子サイズになります).しかも,時系列は離散サンプリングされていますので,拡大し続けると,最後はデータ点を結んだ線分が見えてきます.現実世界にも,ある大きさ(スケール)の幅で,非整数ブラウン運動のようにみえる時系列はあります.

非整数ブラウン運動(H=0.8)のサンプル軌道の拡大

下の図は,1次自己回帰過程のサンプル時系列について,描く時間スケール(時間幅)をだんだん小さくしたものです.横軸の数値に注目してもらうと,値が大きいとき(遠くからみたとき)は細かく上下にギザギザしているけど,値が小さいとき(近づいてみたとき)は,山と谷の凹凸があることが分かります.

1次自己回帰過程のサンプル時系列をプロットする幅を変えると

上の絵をイメージできれば,パワースペクトルが,周波数fが小さいほど,遠くからみたとき(粗く平均化してみたとき)の情報を反映していて,周波数fが高いほど,近づいてみたとき(細かい構造)の情報が反映していることが,なんとなく分かると思います.

上の1次自己回帰過程のパワースペクトルの概略図

最近は,人工知能がはやっていますが,私はまだ人間知能を重視しています.時系列のサンプルが数千個あっても,必ずすべて目で見ます.見ているとなんとなく,そこにある特徴がわかってきます.また,医療に関連する生体信号の場合は,間違った疾患のデータが混じっていたり,データがとれていなかったりすることがあるので,そういったデータを除外しないと,間違った結論を導く危険性があります.