ケィオスの時系列解析メモランダム

時系列解析,生体情報学,数学・物理などの解説です.

【時系列解析】1/fゆらぎを積分するとパワースペクトルの指数が2だけ変化(解析的導出)

今回は,「1/f^{\beta}ゆらぎを積分すると,1/f^{\beta+2}ゆらぎになる」ことの説明です.

つまり,時系列 \left\{ x[i] \right\}_{i=0}^{N-1}パワースペクトルS_x(f)が,低周波数側で

  \displaystyle S_x(f) \propto \frac{1}{f^{\beta}}

に従うとき, \left\{ x[i] \right\}_{i=0}^{N-1}積分した時系列

  y[i] = \displaystyle \sum_{k=0}^{i-1} x[k]  (i=1, 2, \cdots, N)

パワースペクトルS_y(f)が,低周波数側で

  S_y(f) \propto \displaystyle \frac{1}{f^{\beta+2}}

になることの説明です(下図参照).逆に,差分をとると \displaystyle \frac{1}{f^{\beta-2}}になります.

これは, \frac{1}{f^{\beta}}ゆらぎを生成するためには,積分や差分の拡張して(2ずつの傾き変化でなく),非整数積分や非整数差分を導入すればいいな(自由に傾きをかえられる),というアイデアにつながる重要な事実です.

積分前後での時系列(上)とパワースペクトルの変化(下)
積分するとlog-logプロットの傾きが2変化

既に知っている1次自己回帰過程で考察

1次自己回帰過程

 y [n ]=a y [n-1] + w [n ]

で,a=1として,x [n] = w [n+1 ]とすれば,

  y[i] = \displaystyle \sum_{k=0}^{i-1} x[k]   (i=1, 2, \cdots, N)

の形になってます.このとき, \left\{ x[i] \right\}_{i=0}^{N-1}は,白色ノイズなので,

  \displaystyle S_x(f) \propto \frac{1}{f^{0}} = (定数)

です. y[i] パワースペクトルについては, a < 1で, aが1に近いときは,高周波数側で

 \displaystyle S_y (f) \approx  \frac{\sigma^2}{ 4 \pi^2 a f^2}  \propto \frac{1}{f^{2}}

と近似できます(以前の記事で説明しました).
chaos-kiyono.hatenablog.com

1次自己回帰過程のパワースペクトル

ですので,上の図のように, a \to 1とすれば,これがどんどん低周波数側に広がるので,最終的に,低周波数側でも,

  S_y(f) \propto \displaystyle \frac{1}{f^{2}} = \frac{1}{f^{0+2}}

となることが期待できます.ですので,f^0からf^{-2}に変化することが分かります.

数学者のように細かいことを言うと,\{ y[i] \}パワースペクトルは存在しません.なぜなら,n \to \inftyで時系列の分散が発散するので,パワースペクトル密度の全面積も発散するからです.

ということで,有限長の時系列を考える必要があります.

ここでの問題設定は,有限長の確率過程のサンプル時系列を積分して,そのパワースペクトルの推定値を計算するとどうなるか?です.

有限長時系列を積分したときのパワースペクトルの変化(解析的にやる)

  \left\{ x[i] \right\}_{i=0}^{N-1}フーリエ変換X(f_k)とします.ここで,f_k = k/Nです.Nが奇数のときのみ正しい説明をします(偶数のときはf=1/2の扱いのみ違います).

フーリエ変換の結果X(f_k)を使えば,

  \displaystyle  x[i] = \sum_{k=-(N-1)/2}^{k=(N-1)/2} A_k \cos (2 \pi f_k i + \theta_k)

と表せます.ここで,A_k = \frac{|X(f_k)|}{N}\theta_k = {\rm arg} X(f_k)です.

 y[i] = \displaystyle \sum_{j=0}^{i-1} x[j] の計算では,

  \displaystyle  y[i] = \sum_{j=0}^{i-1} \sum_{k=-(N-1)/2}^{k=(N-1)/2} A_k \cos (2 \pi f_k j + \theta_k) = \sum_{k=-(N-1)/2}^{k=(N-1)/2} \left(\sum_{j=0}^{i-1}  A_k \cos (2 \pi f_k j + \theta_k) \right)

となるので,周波数成分ごとに和をとることにします.

 \cosの和の公式

 \displaystyle \sum_{k=0}^{i-1} \cos\left( a k \right) = \frac{\sin \frac{a}{2}i}{\sin \frac{a}{2}} \cos \frac{a(i-1)}{2}

を使えば,

 \displaystyle \sum_{j=0}^{i-1}  A_k \cos (2 \pi f_k j + \theta_k) =\frac{A_k}{2 \sin (\pi f_k)} \left\{\sin(2 \pi f_k i - \pi f_k + \theta_k ) +\sin (\pi f_k - \theta)\right\}

となります.この中で定数項は,パワースペクトルの傾きの議論には寄与しないので,

 \displaystyle \sum_{k=0}^{i-1}  A_k \cos (2 \pi f_k i + \theta_k) \propto \frac{A_k}{2 \sin (\pi f_k)} \sin(2 \pi f_k i - \pi f_k + \theta_k )

を考えれば十分です.もっといえば,各周波数成分の振幅が,積分の前後で,

  A_k

から,

  \displaystyle \frac{A_k}{2 \sin (\pi f_k)}

になる結果を使うだけで,結論が導けます.周波数fが小さい領域を考えるので,ローラン展開複素関数論ででてきます)をつかって,主要項のみ残せば(分母にsin x = xの近似でも構いません),

  \displaystyle \frac{A_k}{2 \sin (\pi f_k)} \approx \frac{A_k}{2 \pi f_k}

となります.

ということで, S_x(f_k) \propto f_k^{-\beta} \propto A_k^2なので,

  S_y(f_k) \propto \left( \frac{A_k}{2 \pi f_k} \right) ^2 = \frac{A_k^2}{\left(2 \pi f_k\right) ^2}= \frac{f_k^{-\beta}}{\left(2 \pi f_k\right) ^2} \propto f_k^{-\beta-2}

が導けました.パワースペクトルが存在するとかの話ではなく,有限長時系列でパワースペクトルの推定量の計算をすれば,これが成り立つということです.