ケィオスの時系列解析メモランダム

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【時系列解析】自己回帰過程のパワースペクトルを解析的に求める

自己回帰過程のパワースペクトルを求めるテクニックの説明です.自己回帰過程の係数が与えられた状況から,パワースペクトルの式を導くことはとても簡単です.でも,大切なことは理屈を感じることです.

必要な基本知識

長さNの時系列\{x[i]\}_{i=0}^{N-1}フーリエ変換とその逆変換は,

 \begin{eqnarray}
x[i] &=& \frac{1}{N} \sum_{k=0}^{N-1} X(f_k) \, e^{{\rm \bf i} 2 \pi f_k i} \nonumber \\
X(f_k) &=& \sum_{i=0}^{N-1} x[i] \,  e^{- {\rm \bf i} 2 \pi f_k i} \nonumber
\end{eqnarray}

です. f_k = k/Nで,{\rm \bf i} 虚数単位です.

 \begin{eqnarray}
x[i] &=& \frac{1}{N} \sum_{k=0}^{N-1} X(f_k) \, e^{{\rm \bf i} 2 \pi f_k i} \nonumber
\end{eqnarray}

恒等式なので, i に, i -jを代入すると,

 \begin{eqnarray}
x[i-j] &=& \frac{1}{N} \sum_{k=0}^{N-1} X(f_k) \, e^{{\rm \bf i} 2 \pi f_k (i-j)} \nonumber \\
&=& \frac{1}{N} \sum_{k=0}^{N-1} X(f_k) \, e^{{\rm \bf i} 2 \pi f_k i} \, e^{-{\rm \bf i} 2 \pi f_k j} \nonumber \\
&=& \frac{1}{N} \sum_{k=0}^{N-1} X(f_k) \, e^{{\rm \bf i} 2 \pi f_k i} \, \left( e^{-{\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right)^j \nonumber \\
&=& \frac{1}{N} \sum_{k=0}^{N-1} \left\{X(f_k) \left( e^{{\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right)^{-j} \right\} e^{{\rm \bf i} 2 \pi f_k i} \nonumber
\end{eqnarray}

フーリエ変換の式と見比べてみると,

となってます.つまり,x[i-j]の,-jの部分に注目して, \left( e^{{\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right)-j乗を, X(f_k)にかけてあるだけです.この部分は,各周波数成分の波の位相が周波数f_kに依存してシフトすることを表しています.ii-jでは,位置がほんの少しずれているので,振幅は同じで,波の位置(位相)だけずれます.

練習すると,

最後に,長さNの時系列\{x[i] \}_{i=0}^{N-1}フーリエ変換を, X(f_k) とすれば,パワースペクトルの推定量\hat{S}_x (k_f)は,

 \displaystyle \hat{S}_x (f_k) = \frac{|X(f_k)|^2}{N}

以上で準備は終わりです.

差分方程式の両辺をフーリエ変換してパワースペクトルを計算

ということで,上の知識を使えば差分方程式の両辺をフーリエ変換して,フーリエ変換の関係式を導けます.パワースペクトルも簡単に求められます.

例えば,x[i]フーリエ変換 X(f_k)で,y[i]フーリエ変換 Y(f_k)として,1次自己回帰過程のような差分方程式,

  y[i] = a y[i-1] + x [i]

を考えます.この両辺をフーリエ変換すると,

  \begin{eqnarray} Y(f_k) &=& a Y(f_k) \left( e^{{\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right)^{-1} + X (f_k) \\
\left(1- a e^{-{\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right) Y(f_k) &=& X(f_k)
\end{eqnarray}

両辺をパワースペクトルの形にするために,両辺の絶対値の2乗をとって,Nでわると,

  \begin{eqnarray} \frac{\left|\left(1- a e^{-{\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right) Y(f_k)\right|^2}{N} &=& \frac{\left|X(f_k)\right|^2}{N} \\
\left| 1- a e^{-{\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right|^2 \frac{ \left|Y(f_k)\right|^2}{N} &=& \frac{\left|X(f_k)\right|^2}{N} 
\end{eqnarray}

x[i]パワースペクトルの推定量は,  S_x(f_k) = \frac{ \left|X(f_k)\right|^2}{N}で,
y[i]パワースペクトルの推定量は,  S_y(f_k) = \frac{ \left|Y(f_k)\right|^2}{N}なので,
パワースペクトルの関係式

  \begin{eqnarray} 
\left| 1- a e^{-{\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right|^2 S_y(f_k) &=& S_x(f_k) \\ 
 S_y(f_k) &=& \frac{1}{\left| 1- a e^{-{\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right|^2}S_x(f_k) 
\end{eqnarray}

がえられます. x [i]が白色ノイズ w [i](分散\sigma^2)のときが,1次自己回帰過程

  y[i] = a y[i-1] + w [i]

だったので, w [i]パワースペクトル S_x [i] = S_w [i] = \sigma^2を上の式に代入すれば,

  \begin{eqnarray} 
 S_y(f_k) &=& \frac{\sigma^2}{\left| 1- a e^{-{\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right|^2}
\end{eqnarray}

となります.複素数の絶対値の2乗が, |z|^2 = z \bar{z} であることに注意して,オイラーの公式

  e^{{\rm \bf i} \theta} = \cos \theta + {\rm \bf i} \sin \theta

を使えば,今まで何度もお世話になってきた,1次自己回帰過程のパワースペクトル

 \displaystyle S(f)=\frac{\sigma^2}{\left( 1- a e^{-{\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right) \left( 1- a e^{ {\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right)} = \frac{\sigma^2}{1+a^2-2 a \cos (2 \pi f)}

になっていることが分かります.

白色ノイズの積分過程も計算してみる

数学的にパワースペクトルが存在するとか,しないとか,私はそんなこと気にしないので,白色ノイズの積分過程

  y[i] = y[i-1] + w [i]

を考えます.両辺をフーリエ変換して,絶対値をとって,2乗して,Nで割れば,

  \begin{eqnarray} 
 S_y(f_k) &=& \frac{1}{\left| 1-  e^{-{\rm \bf i} 2 \pi f_k} \right|^2}S_w(f_k) \\
 S_y(f_k) &=& \frac{\sigma^2}{2 - 2 \cos (2 \pi f)} \\
\end{eqnarray}

になります.fが小さいとして,cosの部分を展開すれば,

  \begin{eqnarray} 
 S_y(f_k) &=& \frac{\sigma^2}{2 - 2 \cos (2 \pi f)} \approx \frac{\sigma^2}{4 \pi^2 f^2} \\
\end{eqnarray}

となり,前にも見た結果がえられます.

これで,何次の自己回帰過程でもパワースペクトルを計算できるようになりました.今回の話は,ラグオペレータとか,後退オペレータとか呼ばれる方法が,何でうまく機能するのかを理解するのに役立ちます.この話は,近いうちにやります.