「ランダムウォーク解析」の話の続きです.前回の記事は,これです.
chaos-kiyono.hatenablog.com
ランダムウォーク解析では,(1) 観測時系列の平均を0にして,(2) 積分して,(3) その増分の2乗平均の平方根をいろんなスケール
で計算して,(4)
対
のプロットの傾きをスケーリング指数
として求める,のでした.ここでは,
の関係がみられる場合を考えています.
これまで説明してなかったかもしれませんが,「スケーリング」とはべき関数(を定数として
の形)で表される関係のことで,「スケーリング指数」とはべき指数(
のときは
)のことです.
の関係がみられる代表的なケースに,以下の「長期記憶」,「長時間相関」,「フラクタル性 (自己アフィン性)」があります.
時系列の長期記憶,長時間相関,フラクタル性
長期記憶過程では,自己共分散関数が,
となり,パワースペクトルが,
となります.スケーリング指数と
の間に
の関係が成り立ちます.
長時間相関過程は長期記憶過程を含みますが,長期記憶過程に対応する正の長時間相関だけでなく,負の長時間相関もあります.長時間相関過程では,パワースペクトルが,
となります.負の長時間相関では,自己共分散関数が負の値もとるので,絶対値をとると,
となってます.と,
の場合を除いて,
は成り立ってます.
フラクタル過程 (自己アフィン性をもつ時系列)では,パワースペクトルが,
となります.非定常なので,自己共分散は,のように,ラグ
の関数として書くことはできません.
ここまでに,3つのスケーリング指数,,
,
が登場しました.今回は,ランダムウォーク解析で,
と
,あるいは,
と
の関係を解析的に導きます.
基本事項の確認
1. との関係式
これまでの記事で,以下の関係を導きました.今回は,これらの関係式を使って計算していきます.
自己共分散関数とランダムウォーク解析のゆらぎ関数
の関係
パワースペクトルとランダムウォーク解析のゆらぎ関数
の関係 (
です)
2. 和を積分で近似
区分求積法で,幅を無限小にしない場合,和と積分は等しくないけれど,近似になってます.つまり,
3.
よく使う近似式です.マクローリン展開で,1次の項まで残してます.
と
の関係
基本事項1にある
において,なので,
と書けて,で,
となります.積分区間は,ナイキスト周波数を意識して変更しました.
上の積分にを代入して計算できればいいですが,私にはできないので,
を近似することで,無理やり計算します.
が,ものすごく小さいときは,上の基本事項3を使って,
とできそうです.
が,
に近づいてくると,
(
がでかい)が影響してきて,分子の
が小さい値とは言えなくなります.ですので,
は使えません.別の方法で近似する必要があります.
は,
が大きい値のとき,
が変わると激しく振動します.それと,
は,最小値0,最大値1で振動するだけです.ということで,分子を平均値で近似してもいいですが面倒なので,最大値1で近似します.つまり,
が
に近い領域では,分子はほぼ一定で1くらい,分母は
と近似します.
私の言っていることが信じられないと思いますので,グラフで近似結果を見てみます.下の図で,近似なしが青実線,近似が赤破線です.特徴は近似できています.

この近似を使うことにして,2つの近似曲線の交点は,です.したがって,
と近似します.の式に
を代入し,さらにこの近似を使って,計算してみます.
この計算では,のとき,積分の公式が使えるので,積分の部分を別々に計算すると,
です (の何乗になるかだけ気にしてください).
ということで,の範囲では,
になってます.と比較して,
では,積分で
の近くの面積が大きくなるので,
の依存性は消えて,一定値,つまり,
(
)になっちゃいます.
では,第一項の積分において,
に近い領域の面積がどでかくなるので,積分に関係ない
のみが効いてきます.したがって,
,すなわち,
です.
以上をまとめますと,以下のようになります.
結局,使えるの範囲は,0から1です.狭すぎです.
と
の関係
これは,前に導きました.
chaos-kiyono.hatenablog.com
長期記憶過程に対応する,の範囲では,
負の長時間相関の,の範囲でも,成り立ちますが,導出について今は思いつかないので,機会があれば説明します.