ケィオスの時系列解析メモランダム

時系列解析,生体情報学,数学・物理などの解説です.

【時系列解析】長期記憶,長時間相関,フラクタル

時系列の長期記憶 (long memory),長時間相関 (long-range correlation),フラクタル性 (fractality)について整理しておきます.

長期記憶過程 (long memory process)

 長期記憶過程は自己共分散関数C(k)が,

\begin{eqnarray}
\sum_{k=0}^{\infty} \left |C(k) \right| = \infty
\end{eqnarray}

 となる確率過程です.何で全部足すの?という疑問がわくと思います.以前に1次自己回帰過程で,相関が0とみなせるまでの時間の話をしました.
 chaos-kiyono.hatenablog.com

1次自己回帰過程のように,相関が0とみなせるまでの時間が見積もれる (特徴的な時間スケールを持つ)場合は,上の積分は有限の値になります.その値が記憶の長さと比例します.上の積分が有限の値になる場合は,短期記憶過程です.

 長期記憶過程では,

C(k) \propto |k|^{-\gamma} \quad (0 < \gamma < 1)

となり,パワースペクトルS(f)が,

S(f) \propto |f|^{-\beta} \quad (0 < \beta < 1)

となります.スケーリング指数\alpha\betaの間に

\gamma+\beta=1\quad (0 < \gamma < 1, 0 < \beta < 1)

の関係が成り立ちます.とはいえ,\gammaが0に近かったり,1に近かったりすると,実際の時系列からの推定では,C(k) \propto |k|^{-\gamma}からかなりずれています.

 長期記憶過程の代表的モデルは,

  • ハースト (Hurst)指数Hが,0.5 < H < 1の領域の非整数ガウスノイズ (fractional Gaussian noise)
  • ARFIMA (Autoregressive fractionally integrated moving average)過程のうち,パラメタd0 < d < 0.5の領域のARIFIMA(0,d,0)過程

があります.非整数ガウスノイズは,非整数ブラウン運動 (fractional Brownian motion)の増分過程です (差分をとった時系列)ので,ハースト (Hurst)指数Hは対応する,非整数ブラウン運動の値で指定されます.

長時間相関過程 (long-range correlated process)

 長時間相関過程は長期記憶過程を含みます.長期記憶過程は,正の長時間相関と同じです.長時間相関には,負の長時間相関もあります.長時間相関過程では,パワースペクトルS(f)が,

S(f) \propto |f|^{-\beta} \quad (-1 < \beta < 1)

となります.負の長時間相関では,自己共分散関数C(k)が負の値もとるので,絶対値をとると,

|C(k)| \propto |k|^{-\gamma} \quad (1 < \gamma < 2)

となってます.\beta=0と,\beta=1の場合を除いて,\gamma+\beta=1は成り立ってます.

 負の長時間相関過程では,

 \begin{eqnarray}
\sum_{k=0}^{\infty} \left |C(k) \right|
\end{eqnarray}

は有限の値になりますので,長期記憶過程ではありません.

 長時間相関の代表的モデルは,

  • 非整数ガウスノイズ (0 < H < 0.5, 0.5 < H < 1)
  • ARIFIMA(0,d,0)過程 (-0.5 < d  <0,  0< d< 0.5)

があります.非整数ガウスノイズは,非整数ブラウン運動 (fractional Brownian motion)の増分過程です (差分をとった時系列).

フラクタル過程

 フラクタル過程 (自己アフィン性をもつ時系列)では,パワースペクトルS(f)が,

S(f) \propto |f|^{-\beta} \quad (1 < \beta < 3)

となります.非定常なので,自己共分散は,C(k)のように,ラグkの関数として書くことはできません (弱定常ではないし,上の2つの過程と比較できるような自己共分散関数は存在しません).

 ハースト (Hurst)指数H\betaには,

 \beta = 2H + 1

の関係が成り立ちます.

 フラクタル過程の代表的モデルは,

です.長時間相関過程を積分したものも,フラクタル過程になります.

 S(f) \propto |f|^{-\beta}を示す時系列を積分すると,S(f) \propto |f|^{-(\beta+2)}となることを,以前,説明しました.
chaos-kiyono.hatenablog.com
chaos-kiyono.hatenablog.com
ですので,何回も時系列を積分すれば,S(f) \propto |f|^{-\beta} \quad (\beta > 3)の時系列も作ることができます.

解析方法

 ここで説明した特徴をもつ時系列については,自己共分散関数C(k)の推定はほとんどの場合,役に立ちません.時系列の解析では,その他の方法を使ってください.

  • パワースペクトルの推定 (スペクトル解析)は,どの場合でも使うことができます.ただし,トレンド成分を除くなどの前処理が必要です.
  • ランダムウォーク解析,detrended fluctuation analyis (DFA), deterending moving average analysis (DMA)には,スケーリング指数 (多くの場合\alphaで表す)を推定できる下限と上限があります.
  • DFA,DMAの高次の方法を使えば,時系列に含まれる多項式トレンド (多項式で近似できるトレンド)を除くことができます.
  • ウェーブレット解析でも,スケーリング指数を推定できます.バニッシングモーメントを持つウェーブレットを使えば,多項式トレンドも除去できます.