ケィオスの時系列解析メモランダム

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【基礎工学のための複素関数論】留数定理

今回は留数定理です.留数定理を知っておいてほしい理由は,自己回帰過程の分解の計算に使うからです.留数定理では,下図のように周回積分する単一閉曲線Cの内側に,特異点と呼ばれるトゲや穴z_1z_2z_3が複数ある場合を扱えます.

複素平面にある特異点のイメージ (実際は実部と虚部それぞれに値があるので一つの図で表せない).単一閉曲線Cの内側に,特異点z_1z_2z_3がある場合.

基本事項の確認

 前回紹介した複素積分のポイントは,下図のように,周回積分する単一閉曲線Cの内側に,特異点と呼ばれるトゲあるいは穴z_0が一つあるかどうかです.トゲと穴は,それぞれ,無限とマイナス無限までのびています.私は,下図右の絵のような穴を感じるので,落ちてしまいそうで怖いです (実際はプラスのとき上向きに発散するトゲで,マイナスのとき穴です).それと,周回積分で回る方向は,反時計回り (内部を左側にするまわり方)です.なぜなら,陸上ではトラック左周りが世界のルールです (複素積分とは関係ありません).

積分経路の内側に穴があるかどうか

1.周回する内側が全部正則 (穴なし)なら周回積分はゼロ

関数f(z)は,単一閉曲線Cとその内部を含む領域で正則であるとする (上図左).このとき,

 \displaystyle \oint_C \! f(z) \, dz = 0

2. 周回する内側に穴 (特異点)があれば,その値を分子に代入する感じ

積分経路の中に穴z_0 (分母が0になる特異点)があれば (上図中),積分は分子の部分にz_0を代入するだけで求まっちゃう:

 \displaystyle \oint_C \frac{f(z)}{z-z_0} \, dz = 2 \pi i f(z_0)

積分経路の中に穴z_0 (特異点)があって,それがn乗でより深くなっていれば,(n-1)微分を繰り返してから,z_0を代入するだけで求まっちゃう:

 \displaystyle  \oint_C \frac{f(z)}{(z-z_0)^{n}} \, d z = \frac{2 \pi i}{(n-1)!} f^{(n-1)}(z_0)

留数定理を理解する一歩手前

 下図左のように,単一閉曲線Cの内側に3つの穴があるとします.

周回積分の分割

このとき,単一閉曲線Cについての周回積分は,3つの穴のまわりを回る,周回積分に分割できます.

  \displaystyle \oint_C f(z) \, d z = \oint_{C_1} f(z) \, d z + \oint_{C_2} f(z) \, d z + \oint_{C_3} f(z) \, d z

なぜかは,上図の右のような周回積分を考えれば説明できます.切り込みの出入は積分経路が逆になっているので,積分は符号が逆になり,和をとるとゼロになります.ですので,基本事項1 (コーシーの積分定理)を使って,

  \begin{eqnarray} \oint_{C-C_1-C_2-C_3} f(z) \, d z &=& 0 \\
\oint_{C} f(z) \, d z -\oint_{C_1} f(z) \, d z - \oint_{C_2} f(z) \, d z - \oint_{C_3} f(z) \, d z &=& 0 \\
\oint_C f(z) \, d z &=& \oint_{C_1} f(z) \, d z + \oint_{C_2} f(z) \, d z + \oint_{C_3} f(z) \, d z
\end{eqnarray}

が成り立つことが分かります.上図右の経路では,C_1C_2C_3が逆回り (右回り)になっていることに注意してください.

 一般に,n個の穴があるとき,

 \displaystyle \oint_C f(z) \, d z = \oint_{C_1} f(z) \, d z + \oint_{C_2} f(z) \, d z + \cdots +\oint_{C_n} f(z) \, d z

となります.

留数って何?

 これは,表現を楽にするための記述に過ぎません.f(z)積分する閉曲線の内側に,穴 (特異点) z_0を持てば,その点での留数を{\rm Res} \, f(z_0)で表し,

  \displaystyle \oint_C f(z) \, d z = 2 \pi i  \,  {\rm Res}  \, f(z_0)

とします.ここでは,基本事項にある被積分関数の分母が,f(z)に含まれていることに注意してください.基本事項の積分と注意深く見比べてやれば分かりますが,

穴 (特異点)が1乗のとき (「1位の極」といいます),

 \displaystyle {\rm Res} \,  f(z_0) = \lim_{z \to z_0} \left[(z-z_0) \,  f(z)\right]

となります.

 穴 (特異点)がn乗のときは,教科書を見てください.私の目的,「自己回帰過程の分解のための説明」では,ここまでで十分です.

留数定理

 ということで,留数定理では,

f(z)積分する閉曲線Cの内側に,穴 (特異点)

 z_1, z_2, \cdots, z_n

をもっている場合は,

 \displaystyle \oint_C f(z) \, d z = 2 \pi i  \sum_{j=1}^{n}  {\rm Res}  \, f(z_j)

となります.Cの内側で,正則とか,連続とか,そういう条件も必要です.