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【確率過程・時系列解析】1次自己回帰過程のパワースペクトルから自己共分散(自己相関)を求める

理由は良く知りませんが,自己共分散(自己相関)関数を使ってパワースペクトルを定義する流儀が存在します.そんな流儀,知ったことではないので,ここでは,1次自己回帰過程のパワースペクトルから,自己共分散(自己相関)を求めてみます.今回は,ここまで説明した内容の復習のための練習問題です.

基本事項のまとめ

1.自己回帰過程のパラメタとパワースペクトルの関係
 m次自己回帰過程

  y[n] = a_1 y[n-1] + a_2 y[n-2] + \cdots + a_m y[n-m] + w[n]

のパラメタ \{a_1, a_2, \cdots, a_m\}と, w[n] の分散\sigma^2 (平均は0とします)が与えられたとき,パワースペクトルは,

 \displaystyle 
 S_y (f_k) = \frac{\sigma^2}{\left|1 - a_1 e^{{\bf i} 2 \pi f} + a_2 e^{{\bf i} 4 \pi f} + \cdots + a_m e^{{\bf i} 2 \pi f m} \right|^2}

です.以下の記事で説明しました.

chaos-kiyono.hatenablog.com

2.自己回帰過程が発散せずにおとなしくしてくれる条件
 m次自己回帰過程

  y[n] = a_1 y[n-1] + a_2 y[n-2] + \cdots + a_m y[n-m] + w[n]

について,

特性方程式
 \displaystyle 1- a_1 z- a_2 z^{2} - \cdots - a_M z^{M} = 0
の解 (根)の絶対値がすべて1より大きければ,自己回帰過程は発散しない.

以下の記事で説明しました.
chaos-kiyono.hatenablog.com

3.パワースペクトルから自己共分散(自己相関)を求める式
 m次自己回帰過程(以下のw(t)は平均0,分散\sigma^2の白色ガウスノイズ)

 \begin{eqnarray}
y[i] = \sum_{m=1}^{M} a_m\, y[i-m] + w[i]
\end{eqnarray}

について,

\begin{equation}
\displaystyle A(z) = 1 - \sum_{m=1}^{M} a_m z^{m}
\end{equation}

とすれば,そのパワースペクトルと自己共分散(自己相関)関数には,

\begin{eqnarray}
C(\, j\, ) &=& \frac{\sigma^2}{i 2 \pi} \int_{|z| = 1} \! \frac{z^{j-1}}{A(z^{-1}) A(z)} \, dz
\end{eqnarray}

が成り立ちます.以下の記事で説明しました.
chaos-kiyono.hatenablog.com

4.留数定理
 以下の記事を読んでください.
chaos-kiyono.hatenablog.com


1次自己回帰過程で基本事項を復習の巻

 1次自己回帰過程

  y[n] = a y[n-1] + w[n]

で基本事項を使ってみます.ここで, w[n] は平均0,分散\sigma^2の白色ノイズです.

1.まずはパワースペクトルを計算
 基本事項1を公式として使えば,

  \displaystyle 
 S_y (f_k) = \frac{\sigma^2}{\left|1 - a e^{{\bf i} 2 \pi f} \right|^2}=\frac{\sigma^2}{\left(1 - a e^{{\bf i} 2 \pi f} \right)\left(1 - a e^{-{\bf i} 2 \pi f} \right)}

となります.もっと,きれいになりますが,今回はこのままにしておきます.

2.パワースペクトルを使って自己共分散(自己相関)関数をとりあえず書いてみる
 基本事項3を使います.

  \displaystyle A(z) = 1 - a z

になるので,

 \begin{eqnarray}
C(\, j\, ) &=& \frac{\sigma^2}{i 2 \pi} \int_{|z| = 1} \! \frac{z^{j-1}}{A(z^{-1}) A(z)} \, dz \\
&=& \frac{\sigma^2}{i 2 \pi} \int_{|z| = 1} \! \frac{z^{j-1}}{(1 - a z^{-1})(1 - a z)}\, dz
\end{eqnarray}

です.

3.aの値の範囲をちょっと考察
 自己回帰過程が発散しないための条件は,基本事項2です.ということで,特性方程式

 \displaystyle 1- a z = 0

の根z=1/aの絶対値が1より大きければ,その過程は無限のかなたに逃げていきません.つまり,

 \displaystyle |a| < 1

です.

3.自己共分散(自己相関)関数を計算
 留数定理の登場です.今回の計算

 \begin{eqnarray}
C(\, j\, ) &=& \frac{\sigma^2}{i 2 \pi} \int_{|z| = 1} \! \frac{z^{j-1}}{(1 - a z^{-1})(1 - a z)}\, dz
\end{eqnarray}

において,積分の内側 (非積分関数)を見てください.この積分は,|z| = 1に沿った計算です.つまり,原点を中心とする半径1の円(単位円)をぐるっと回る周回積分です.周回積分で注目するのは,この円の内側に穴(トゲ,正式には特異点)があるかどうかです.ということで,分母がゼロになる点の位置を調べます.

 非積分関数で分母がゼロになる点は,z=az=1/aです.1次自己回帰過程が発散しない条件は,\displaystyle |a| < 1だったので,単位円の内側にあるのは,z=aです.この点の留数 (とりあえず式をf(z)として)は

 \displaystyle {\rm Res} \,  f(a) = \lim_{z \to a} \left[(z - a) \,  f(z)\right]

を使えば計算できます.

 \begin{eqnarray}
C(\, j\, ) &=& \frac{\sigma^2}{i 2 \pi} \cdot 2 \pi i \lim_{z \to a} \left[(z - a) \,  \frac{z^{j-1}}{(1 - a z^{-1})(1 - a z)} \right] \\
 &=& \sigma^2 \lim_{z \to a} \left[(z - a) \,  \frac{z z^{j-1}}{z (1-a z^{-1})(1 - a z)} \right] \\
 &=& \sigma^2 \lim_{z \to a} \left[(z - a) \,  \frac{z z^{j-1}}{ (z-a)(1 - a z)} \right] \\
 &=& \sigma^2 \lim_{z \to a} \left[\frac{z^j}{1-az} \right] \\
 &=& \sigma^2 \frac{ a^{j}}{1-a^2} \\
 &=& \frac{ \sigma^2 }{1-a^2} a^{j}
\end{eqnarray}

となります.正しそうです.そういえばこのブログでは1次自己回帰過程の自己共分散関数を導いていませんでしたが,形は以下のブログに書きました.

chaos-kiyono.hatenablog.com

ということで,自己回帰過程はパワースペクトルも公式的に計算できるし,自己共分散も公式的に計算できます.