ケィオスの時系列解析メモランダム

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【確率過程の基礎】線形確率過程

線形確率過程の定義が曖昧なまま,「非線形何たら」とか感覚的な話をする論文が増えていると感じます.心拍変動指標では,パワースペクトルの両対数プロットの傾きが非線形指標に分類されて,もう30年くらいたちます (何で非線形なの?).ということで今回は,線形確率過程の代表的な定義を紹介します.

 文章で定義するのであれば,

 移動平均過程の形 (無限次元あり)で表すことができる確率過程が,線形確率過程」

です.式を使って書けば,以下のようになります.

独立で同じ分布に従う確率変数\varepsilon[n] (nは整数)を使って,
\begin{eqnarray} x[n] &=& \mu + \sum_{j=0}^{\infty} a_j \, \varepsilon[n-j] \end{eqnarray}
と表すことができる確率過程\{x[n]\}を線形確率過程と呼ぶ.ここで,\mu\{a_j\}は定数.

 定義なので文句は言わないでください.私はこの定義を知っていましたが,それを書いてある本が見つからず,説明するには自信がありませんでした.でも,先週買った本「Long-Memory Processes: Probabilistic Properties and Statistical Methods」(by Beranら)に書いてあったので,今回自信をもって説明します.とはいえ,数学的な厳密なことは説明できません.

 \muは平均値を表すパラメタなので0として省略することにします.ラグオペレータLを使って表すと,


\begin{eqnarray} x[n] &=& \sum_{j=0}^{\infty} a_j \, \varepsilon[n-j] \\&=& \sum_{j=0}^{\infty} a_j \, L^{j} \varepsilon[n] \\
&=& \left(\sum_{j=0}^{\infty} a_j \, L^{j} \right) \varepsilon[n] \end{eqnarray}

となります.ラグオペレータLを何乗かする演算だけ (L多項式)で書けて,この演算は線形なので,まー,線形です.ラグオペレータと線形性については,過去の記事(以下の2つ)を参照してください.
chaos-kiyono.hatenablog.com
chaos-kiyono.hatenablog.com

線形確率過程の例

  • 自己回帰過程は,無限次の移動平均過程に書き直せるので線形確率過程です.

chaos-kiyono.hatenablog.com

  • ARFIMA(0, d, 0)は,無限次の移動平均過程に書き直せるので線形確率過程です.ARFIMA(0, d, 0)について,結局説明していませんが,以下の記事か,他の文献を見てください.

chaos-kiyono.hatenablog.com

上に書いた定義で突き進むと (自信はありませんが),

  • \varepsilon[n]積分 (和分)過程も,差分過程も線形です.発散したらダメと書いてあれば,積分 (和分)過程は外れますが,発散を気にしなければいいだけです.

chaos-kiyono.hatenablog.com

まとめ

 最初に,心拍変動指標では,パワースペクトルの両対数プロットの傾きが非線形指標に分類されていると説明しましたが,それは線形確率過程の性質じゃないの,というのが今回の結論です.さらに,言えば,パワースペクトルで完全に特徴付けられる確率過程は線形といえます.このことをはっきりと書いている本や,ホームページがほとんどないので,私には自信がありません.しかし,私が知っている海外の研究者は,はっきりとそのように言ってました.