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【論文メモ】グレンジャー因果性のオリジナル論文Grainger (1969) : (その2)因果性,フードバック,瞬時的因果性,因果性ラグ

Grainger因果性のオリジナル論文 [Granger, C. W. (1969). Investigating causal relations by econometric models and cross-spectral methods. Econometrica: journal of the Econometric Society, 424-438]に書いてあったことのメモです.前回の続きです.
chaos-kiyono.hatenablog.com

 この論文では,Causality (因果性)Feedback (フィードバック)Instantaneous Causality (瞬時的因果性)Causality Lag (因果性ラグ)の定義を与えた後に,多変量自己回帰過程 (2変量と3変量)を例として,クロススペクトルの構造と因果の関係が議論されています.「クロススペクトルの分解で因果の定量化ができるかも」といったくらいのやや弱いメッセージが書かれていると感じました."Instantaneous Causality"と"Causality Lag"の日本語訳は,インターネットで検索してもあまりヒットしなかったので,一般的な日本語名称はわかりません.

 今回は,Graingerの論文に示してあった,

  • Causality (因果性)
  • Feedback (フィードバック)
  • Instantaneous Causality (瞬時的因果性)
  • Causality Lag (因果性ラグ)

の定義をメモっておきます.現在の一般的な定義とは違う可能性がありますので注意してください.

1. (準備) 記号の説明

 ここでは,オリジナル論文と違って、自己流の表現になっている部分があります.理解の補助として図を作って載せておきました.

 X_tを定常確率過程とします.現在の時刻を t とすれば,

  • \overline{X} は,現在よりも過去の値の集合\left\{X_{t-1}, X_{t-2}, \cdots, X_{t-\infty}  \right\}を表します.
  • \overline{\overline{X}} は,現在と過去の値の集合\left\{X_{t}, X_{t-1}, X_{t-2}, \cdots, X_{t-\infty}  \right\}を表します.
  • \overline{X}(k) は,現在から時間kだけ戻った時間以前の値の集合\left\{X_{t-k}, X_{t-(k+1)}, \cdots, X_{t-\infty}  \right\}を表します.
集合の記号の説明
  • U は,全情報の集合を表します.\overline{U} は,過去の全情報の集合です.
  • 過去の値の集合 \overline{X} を使って時刻tの値 X_t を予測したいとき,最適な予測子 (不偏で最小二乗になっている予測)を P_t \left(\! X \left|\overline{X} \right. \! \right) とします.
  • P_t \left(\! X \left|\overline{X} \right. \! \right) の予測誤差を,\varepsilon_t \left(\! X \left|\overline{X} \right. \! \right) = X_t - P_t \left(\! X \left|\overline{X} \right. \! \right) とします.
  • \varepsilon_t \left(\! X \left|\overline{X} \right. \! \right)の分散を,\sigma^2\left(\! X \left|\overline{X} \right. \! \right)とします.
記号の説明

2. 因果性,フードバック,瞬時的因果性,因果性ラグ

 用語の定義をまとめます.要は,予測が良くなる,悪くなるの関係です.

Causality (因果性) [Grainger (1969)]
 \sigma^2\left( X \left|U \right. \right) < \sigma^2\left(X \left|\overline{U-Y} \right.\right)が成り立つとき,YX を引き起こしていると言い,この関係を Y_t \Rightarrow X_t と表す.X_tを予測する場合に,Y_t以外の情報を使った予測よりも、利用可能なすべての情報を使った予測の方がより適切な予測を与えるのであれば,Y_tX_t を引き起こしていると言う。

【補足】これは,\sigma^2\left( X \left|\overline{U} \right.  \right) < \sigma^2\left(X \left|\overline{U-Y} \right. \right)のミスプリではないかと思います.Yを使った方が,Xの予測が良くなるという条件です.現在では,「引き起こす」あるいは「原因」というよな表現で,因果関係を断定するような言い方はせず,「グレンジャー因果性がある」と言うようになっているのだと思います.

Feedback (フィードバック) [Grainger (1969)]
 \sigma^2\left( X \left|\overline{U} \right. \right) < \sigma^2\left( X \left|\overline{U-Y} \right. \right) かつ,\sigma^2\left(Y \left|\overline{U} \right. \! \right) < \sigma^2\left( Y \left|\overline{U-X} \right. \right)であれば,フィードバックが生じていると言い,この関係を Y_t \Leftrightarrow X_t と表す.

Instantaneous Causality (瞬時的因果性) [Grainger (1969)]
 \sigma^2\left( X \left|\overline{U}, \overline{\overline{Y}} \right. \right) < \sigma^2\left( X \left|\overline{U} \right. \right) が成り立つとき,瞬時的な因果性 Y_t \Rightarrow X_t が生じていると言う.

瞬時的な因果性の説明

Causality Lag (因果性ラグ) [Grainger (1969)]
 Y_t \Rightarrow X_t のとき,\sigma^2\left( X \left|U-Y(k) \right. \right) < \sigma^2\left( X \left|U-Y(k+1) \right. \right) である最小値 mを,因果性ラグとして定義する.

【補足】\sigma^2\left( X \left|U-\overline{Y}(k) \right. \right) < \sigma^2\left( X \left|U-\overline{Y}(k+1) \right. \right)のミスプリだと思います.

3. 2変量自己回帰過程を例とした説明

因果性
 以下の2変量自己回帰過程を使って因果性を説明します.

 \begin{equation}  
\left\{\begin{array}{l}
\displaystyle X_t = \sum_{j=1}^{m} a_{j} \, X_{t-j} + \sum_{j=1}^{m} b_{j} \, Y_{t-j} + \varepsilon_{t} \quad (*) \\
\displaystyle Y_t = \sum_{j=1}^{m} c_{j} \, X_{t-j} + \sum_{j=1}^{m} d_{j} \, Y_{t-j} + \eta_{t} \quad  (**)
\end{array}\right.
\end{equation}

ここで,\varepsilon_{t}\eta_{t}は,2つの互いに相関のない白色ノイズです.

  • 上の式 (*)の係数\{b_{j}\}の中で,0でないものがあれば,Y から X への因果性 (Y_t \Rightarrow X_t)があります.
  • 上の式 (*)の係数\{b_{j}\}の中で0でないものがあり,式 (**)の係数\{c_{j}\}の中で0でないものがあれば,フィードバック (Y_t \Leftrightarrow X_t)が生じています.

瞬時的な因果性
 次は,瞬時的な因果を説明するために以下の2変量自己回帰過程を考えます.

 \begin{equation}  
\left\{\begin{array}{l}
\displaystyle X_t+b_0 Y_t = \sum_{j=1}^{m} a_{j} \, X_{t-j} + \sum_{j=1}^{m} b_{j} \, Y_{t-j} + \varepsilon_{t} \quad (\dagger) \\
\displaystyle Y_t +c_0 X_t= \sum_{j=1}^{m} c_{j} \, X_{t-j} + \sum_{j=1}^{m} d_{j} \, Y_{t-j} + \eta_{t} \quad  (\dagger	\dagger)
\end{array}\right.
\end{equation}

  • 上の式 (\dagger) で,b_0 \neq 0であれば,瞬時的な因果性 Y_t \Rightarrow X_t が生じています.

 式に説明を書き込んだのが下の図です.

自己回帰過程と因果性

まとめ

 計量経済学の論文を読みこなせる訳ではありませんが,Graingerの論文は比較的読みやすかったです.論文のメインはクロススペクトルの分解ですが,それについては説明しません.

 以下はこれまでの関連記事です.
chaos-kiyono.hatenablog.com
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