心拍変動解析では,通常の正常洞調律 (normal sinus rhythm)の間隔時系列を分析します.正常洞調律についての説明は,以前の記事を参照してください.
chaos-kiyono.hatenablog.com
心拍変動では,正常洞調律を分析するというのが建前とはいえ,多くの場合,R波の検出不良があったり,洞調律ではない不整脈が含まれていたりします.心拍変動解析では,そーいった非洞調律によるRR間隔データを,正常洞調律っぽく修正してから分析します.今回は,心拍変動解析のための基礎知識として,心電図波形とRR間隔の関係について説明します.
まず,正常洞調律
下の図上段のような正常洞調律の心電図 (ECG)波形を見ると,同じ波形パターンが繰り返し現れます.でも,R波の出現間隔 (図下段のRR間隔)は,メトロノームのように一定ではなく,ある程度ばらつきます.

短長パターンの典型の心室性期外収縮
心室性期外収縮 (ventricular premature contraction:VPC)は,心室が調和を乱して,自分勝手に発火 (電気発生)してしまうことで生じる不整脈です.下の図上段の心室性期外収縮 (VPC)の部分にみられるパターンです.RR間隔が自動検出されたデータでは,心室性期外収縮 (VPC)の部分のRR間隔は,異常に短くなります.その直後のRR間隔は,異常に長くなります.ここで,異常とは,正常洞調律ではありえないということです.

心室性期外収縮 (VPC)の場合,心室は拍子を外していますが,洞結節からの電気の流れは正常な間隔を反映しています.ですので,心室性期外収縮 (VPC)の前後の,短長の2つのRR間隔を足したものが,正常洞調律のRR間隔2拍分に等しいと考えられます.
ということで,心室性期外収縮 (VPC)のRR間隔の修正は,
とすることが多いです.
ノイズを誤検出
下の図は,ノイズで発生したピークを誤検出し,真のR波を見逃した例です.R波の自動検出アルゴリズムでは,心筋の不応期 (発火すると300msくらい休む特性)を考慮して,R波の間隔が近くならないようにしてあることが多いです.ですので,ノイズピークの後のR波は飛ばされる可能性があります.

上の図の場合も,心室性期外収縮と同じようにRR間隔を修正すれば大丈夫です.
ただし,通常のR波とR波の間にノイズのピークが検出された可能性がある場合は,2つのRR間隔を足して,1つ分のRR間隔にしてください.
R波の検出漏れ
心電計測で,R波の高さが低くなったり,ノイズに隠れて検出できないことがあります.下の図の例では,2個のR波が飛ばされて言います.

この場合は,直前のと
の比から,おおよそ,
とわかるので,
はRR間隔3個分だと予想できます.ということで,修正は,
を3で割ったものを,
の代わりに3つ挿入すれば大丈夫です.
上室性期外収縮
心房側が勝手なふるまいをするのが,上室性期外収縮 (supraventricular premature contraction: SVPC)です.下の図のように上室性期外収縮 (SVPC)は,修正が難しいケースです.なぜなら,心室性期外収縮 (VPC)のように足して2で割る方法がイマイチだからです.それでも,足して2で割る修正が,選択肢の一つです.

修正不可能な心房細動と心房粗動
下の図は,上段が心房細動,下段が心房粗動の例です.
>
心房細動では,1.5秒を超えるような長いRR間隔がむちゃくちゃたくさん含まれていて,非常にノイジーなグラフになります.心房粗動は,逆に結構周期的に見えて,RR間隔のグラフに数本の筋が見えたりします.患者さんのデータを分析するときは,心房細動,心房粗動,ペースメーカなどのデータが含まれていることがあるので,洞調律とは分けで分析するようにしてください.
学生のための宿題
以上の知識を踏まえて,RR間隔データを自動修正するプログラムを各自で作ってください.