Detrended Fluctuation Analysis (DFA)で,無相関な信号,つまり,ホワイトノイズを解析したらどうなるかのお話です.DFAに詳しい人の多くは,そんなのスケールをとして,ゆらぎ関数 (fluctuation function)は,
だろというかもしれません.が大きい,漸近的な振舞を考えれば,これは正しいです.でも,全スケールにわたって正しいわけでもないし,具体的な関数形は分かりません.ということで,今回は,を解析に求めると,という話です.
先に結論をまとめておくと,解析する観測時系列の標本分散をとすれば,fluctuation function は,以下のようになります.
上のどの場合でも,が大きくなると,
になることが分かります.
どうやって導出するかは,MarcとHolgerの論文
link.springer.com
に説明してあります.この論文中の式(12)とか、式(17)のの部分にタイプミスがありますが,計算間違いやタイプミスは誰にでもあるので,読む側が気をつければいいだけです.
解析的結果の導出
詳しく説明するのは面倒なので,ポイントだけ言います.要は,
- 時系列の積分は線形演算 (畳み込みで表現可能)
- 最小二乗法でえられる回帰曲線の計算も線形演算 (畳み込みで表現可能)
- 定義通りを計算すれば,自己共分散 (自己相関)との関係がでてくる
- 自己共分散 (自己相関)を,単位インパルス関数 (ラグ0以外は全部ゼロ)として計算
ということです.つまり,面倒くさがらずに,真面目に計算するだけです.真面目に計算といっても,解いただけでは記憶に残らないので,そこにある構造や解釈のイメージをつかむように意識してください.
n次DFAの場合について,計算の流れだけ具体的に書いておきます.
まずは,以下の行列の逆行列を計算します.これは,最小二乗法フィットの畳み込み係数を計算しています.
逆行列の計算を手ですると大変ですが,数式処理ソフトのMathematicaとか,Maximaとかを使えば,屁くらいの手間です.以下では,の要素をとします.
ここで,以下の関数を定義します.は部分区間の長さ (スケール)です.
ということで,標本分散のホワイトノイズのサンプル時系列のfluctuation functionは,
です.こんな知識,日本で知りたい人は5人もいないと思います.1人でも役に立てばうれしいので書いておきました.
Fluctuation functionのグラフ
何での全体像を考えるのかといえば,ときどき,勘違いで短時間のスケーリング指数や相関特性を議論しちゃう人がいるからです.
上ののグラフは下の図のようになります.
上の図では,が小さいスケールで直線的になってません.この非直線的な構造は,時系列の性質ではなく,DFAの方法の都合で生じているのです.ですので,短いスケールの傾きから,相関の性質は議論できません.