ケィオスの時系列解析メモランダム

時系列解析,生体情報学,数学・物理などの解説です.

単位ステップ関数の微分 ― 直感的理解 ―

単位ステップ関数u(t)微分について考えてみます.公式的に、

 \displaystyle \frac{du(t)}{dt} = \delta(t)

が成り立ちます.ここで, \delta(t)は,単位インパルス関数です.今回は,何でこうなるの?というのを直感的に考えていきます.今回は,どちらかといえば,線形システムの応答を考えるためのお話です.

単位ステップ関数の定義

 単位ステップ関数の定義っていろいろあります.下の図みたいな感じです.違いは,すべて,t=0の瞬間にあります.

単位ステップ関数の定義

 上の図の(a)を,よく見る気がします.数式処理ソフトMathematicaでは,UnitStepでこの定義を使っています.

 上の図の(b)の定義もときどき見かけます.私のイメージでは,静止状態から「よーいドン」と,t=0 から走り出すように考えたいので,システムの応答を考えるときは,この定義が好みです.

 上の図の(c)の定義もときどき見かけます.ここでまとめたように,t=0 の扱いはいろんな流儀があるので,t=0 のことは考えたくない気持ちが表れています.物理的には,t=0の瞬間だけを考えても意味はないので,なくても構わない気もします.

 上の図の(d)の定義は,ヘヴィサイドの階段関数です.ディラックデルタ関数積分と考えられるので,物理で空間的な分布を考えるときは,この定義が良いと私は考えています.

単位ステップ関数の微分

 単位ステップ関数では,t=0 で瞬間的に値が0から1にジャンプします.システムへの入力を考えるとき,そのように値が不連続に変化するのは不自然に感じてしまいます.例えば,電流とか,水流とか,力とかは,一定値の入力を実現したくても,一定値になるまで多少時間がかかります.ということで,ここでは,単位ステップ関数をより自然な形にした下の図のような連続な関数を考えます.つまり,t=0 から入力が直線的に増加し,t=\varepsilon で 1 に達すると考えます.

有限時間  \varepsilon で一定値に達する入力

 この関数の微分 (下図左下)を考えて,\varepsilon \to 0 の極限をとると,下の図右のようになります.

単位ステップ関数の微分

 入力の微分は,t=0 の直後に,面積1をもつ関数になっているので, \varepsilon \to 0 の極限をとれば,単位インパルス関数 \delta(t) になります.ここで,

 \displaystyle  \int_{0}^{\infty} \delta(t) \, dt = 1

です.単位インパルス関数については,前の記事を参考にしてください.
 
chaos-kiyono.hatenablog.com

 システムの応答を考えるとき,すべては t=0 からはじまります.でも,局在する電荷などを考える物理では,時刻  t ではなく位置  x を考え, x = 0 について対称な関数を考えた方が便利です.そのような場合は,下の図のように考えます (図では,横軸が tになってます).

ヘビサイト関数の微分

この場合は,ヘビサイト関数を微分すると,ディラックデルタ関数になります.ここで,

 \displaystyle  \int_{-\infty}^{\infty} \delta(t) \, dt = 1

であり,上の単位インパルス関数とはちょっと違います.つまり,ヘビサイト関数を微分した関数では,

 \displaystyle  \int_{0}^{\infty} \delta(t) \, dt = \frac{1}{2}

です.

まとめ

 単位ステップ関数や,単位インパルス関数を使うと,理想化された状況を扱えるので,数学的には便利です.ただし,理想化する前が,どんな状況だったかを考えないと,直感とあわなくなったり,単位ステップ関数と単位インパルス関数の定義が気持ち悪く感じたり,ということになると思います.単位ステップ関数と単位インパルス関数については,自分が考えたい問題にふさわしい定義を使ってください.