ケィオスの時系列解析メモランダム

時系列解析,生体情報学,数学・物理などの解説です.

ロジスティック写像のカオス

今回は,決定論的カオス (deterministic chaos)の説明用の動画を作りました.決定論的カオス (以下では,カオス)というのは,時間発展を決定論的に決めるルールがあるのに,未来が予測できなくなる現象のことです.

カオスとは

 カオスを示す決定論的システムの具体例として,ロジスティック写像

 x_{n+1} = C x_n (1-x_n)

を考えます.ここで, 0 < x_n < 1で,Cは制御変数です (0 < C \le 4).Cの値を変えると, x_nの漸近的な振舞が変化します.

 C = 4の場合が,カオスの例になっています.カオスの主な特徴は,

  • 短期予測可能
  • 長期予測不可能
  • 非周期パターン

です.下の図では,

 下の図は,x_{n+1} = 4 x_n (1-x_n)で,初期値x_1 = 0.3 (青)の場合と x_1 = 0.300000000000001 (赤)の場合を比較した結果です.初期値の差は,10^{-15}です.

ロジスティック写像のカオス.初期値x_1 = 0.3 (青)と x_1 = 0.300000000000001 (赤)の比較.

 図の左は,クモの巣図法と呼ばれる時間発展をグラフを使って調べる方法のアニメです.図の右は, x_nの時間発展のグラフです.

  n= 40くらいまでは,青と赤の2つの点がほとんど同じ振舞を示します (2点は重なっています).これが,短期予測可能ということです.初期値の値が近ければ,短期的には似た振舞になります.

 しかし, n= 40をこえると,青と赤の2つの点が全く違った振舞を示すようになります.これが,長期予測不可能ということです.カオスでは,初期値鋭敏性といって,ほんのわずかな差が,指数関数的に大きくなるため,どんなに小さい差でも,いつかはシステムサイズくらいの差に成長してしまいます.

周期倍分岐

 ロジスティック写像で制御変数Cの値を変えると,カオス以外にも,いろいろと面白い現象が見られます.例えば,同じ値が繰り返すパターンです.Cを0から次第に増加させると,1つの値に収束したり (1周期),2つの値を繰り返したり (2周期),4つの値を繰り返したり (4周期)と,周期が倍々になる周期倍分岐というのが現れます.下の図は,いくつかのCでの振舞です.

C=2.8,初期値x_1 = 0.3の場合,1周期に漸近.
C=3.2,初期値x_1 = 0.3の場合,2周期に漸近.
C=3.54,初期値x_1 = 0.3の場合,4周期に漸近.

無相関と独立性の違い

 x_{n+1} = 4 x_n (1-x_n)の振舞は,無相関と独立性の違いを考える上で良い例になっています.つまり,この写像で生成される時系列\{x_n\}は,無相関な時系列になっています.でも,\{x_n\}は,短期予測可能なので,異なる時刻の値同士は独立ではありません.相関と独立の違いを理解しておいてください.

まとめ

 私は,博士 (理学)をとるまでは,カオス力学系の研究をしていました.その後,生理学とか,医学への応用を指向しました.カオスについての読み物としては,ジェイムズ・グリック著の「カオス―新しい科学をつくる」 (新潮文庫,1991)をお勧めします.ただし,カオスは,一時,ブームになり私もその影響を受けましたが,現在は,グリックの本で書かれているような勢いはないです.私は,博士過程を修了した後,運良く日本学術振興会の特別研究員(PD)に採択されました.そのころから,カオスとか,自分の狭い専門性に頼った研究をするのではなく,世の中の役に立つことを実現するために,新しいことに積極的に挑戦するようになりました.